研究テーマ2:確率的素子から安定で柔軟なシステムを作る数理的ロジックの探索

統計学・情報理論と力学系理論を融合した理論の構築

確率的素子から安定で柔軟なシステムを作るロジックを明らかにする上で現在取り組んでいることが、統計学・情報理論などの枠組みと力学系的な枠組みとを融合することです。前者はノイズからの情報抽出や情報処理を数理的に扱う為に発展した非常に強力な枠組みであり、細胞レベルでの情報処理の理解にこれから大きな役割を担うと考えています。しかし問題は、その理論が連続的な時間構造を含まない静的な状況において主に発展してきた、ということです(最近はオンライン化などの話も盛んなようですが)。
すべての生命現象は動的であり、細胞内でおこる様々な動的な化学反応は力学系の枠組みで表されます。従って細胞が行っている情報処理というものを数理的に厳密にとらえつつ、かつそれを分子的な知見と融合させるためには、情報理論・統計学と力学系との融合が不可欠になるわけです。例えば分岐や相転移などの力学系の理解から自然と出てくる概念は情報理論や統計学にはほとんど現れません。しかし生命現象においては、ある種のヒステリシスや振動など分岐現象を介して現れた動的構造は多数見られます。このような現象がいかに情報処理と関わっているか?は(厳密な数理として)ほとんど手が付けられていない問題だと思っています。

さらに定量的な生命研究との関連で言うと、現在定量的な生命科学研究が直面している課題の一つが「定量的な解析で初めてわかる問題は何か?」ということを明らかにし、分野の存在意義を確立してゆくことです。では定量的な解析でわかることとは何でしょうか?私はその一つが「情報」だと思っています。物理的な現象と異なり生物がほかの生物との競争に打ち勝ってゆくためには自身が得られる情報を最大限利用することは不可欠です。この情報というものは非常に曖昧で、ある種の定量化と数理的な解析を介してのみその意味が明らかになります。しかしそれをうまく処理するための数理的枠組みが構築されていないため実験的に適切に扱われはいません。細胞にとっての「情報とはなにか?」、「それをいかに定性的にとらえるか?」、さらには「それをいかにして定量的に評価するか?」を扱うための数理的方法論の確立が大事だと思っています。

情報論的最適性から捉える分子・細胞・発生現象

JSTさきがけで現在進めている「情報処理の最適性からとらえる分子・細胞・発生現象」ではこのような研究を精力的に進めています。この研究はなかなか面白く、様々な理論を組み合わせた総力戦的な様相を呈してきています。例えばキーワードで言うと、マスター方程式・確率微分方程式・フォッカープランク方程式・ベイズ統計・情報幾何・システム同定・最適制御・確率制御・ カルマンフィルター・逐次推定・情報理論・統計物理・ランダム力学系・待ち行列・第二量子化 などが数理的手法として関係してきます。このような既存の数理的手法が生物学的なモチベーションおよび実際の知見からのフィードバック(実際には既存の知見を取り入れたシミュレーションなど)を介して自発的かつ有機的につながってくるのが非常に楽しいです。

はじめは既存の数理理論を借用して応用する部分が大きいでしょうが、このような理論的基礎と実験からのフィードバックを積み重ねて理論を深化させてゆくことにより、他の理論分野から見ても新規性の高い理論が構築できるのでないかと思っています。

また理論神経科学との関係に言及すると、理論的に細胞レベルでの情報処理が遅れていることは確かです。しかし細胞が化学反応レベルで行っている様々な情報処理は、近年の分子生物学的な知見の蓄積もあり、ネットワークレベルや生化学レベルでどんな反応が情報処理を担っているのか?という点について、非常にしっかりとした情報が得られるようになっています。他方で神経科学はどうしても脳の柔軟性に起因した個別性の問題がつきまとい、実際にある情報処理をどんなシステムが実現しているのか?という実験側からのフィードバック(もとい理論への拘束条件)が相対的に得られにくいと思っています。その意味で細胞レベルでの情報処理はこれから実験的知見と相補的に加速的に発展してゆく可能性があると思っています。

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