研究の背景
信頼性の低い素子から構成されるロバストな生命システム
ほとんどの生命システムはとてもロバストなシステムです。様々な外乱や不確定かつ未知な変化にも(人工システムと比較して)驚くほど柔軟に適応し、自己の恒常性を維持します。このような生命システムの「恒常性」・「安定性」・「ロバスト性」は数十年もの昔から人々を引きつけ、新しい生物的・物理的・工学的・数学的な発想につながってきました(例えばサイバネティックス)。
近年、分子生物学・細胞生物学などの発展と共に、ミクロレベル(細胞・細胞内反応)での生体現象の動態を定量的に測定することができるバイオイメージングの技術が発展してきました。その結果、高い安定性を示す生命システムの構成要素である細胞やその細胞内での反応は、非常に確率的で、安定性やロバスト性とは程遠い振る舞いをするということが分かって来ました(例えばNatureの特集など)。
信頼性の低い素子から安定なシステムを作る原理は何か?
このような生命システムの特徴は、人が創りだしてきた工学システムから見ると非常に驚くべきものです。基本的に工学システムは可能な限り、素子レベルでの不確定な挙動を抑制し、その結果としてシステム全体としての安定性を実現しています。もちろん完全に決定的に振る舞う素子は作れないので、そこには許容できるばらつき・ゆらぎは存在しますが、生命システムのそれは、工学システムと比較してはるかに大きいと考えられています(実は必ずしも厳密な検証はされていない)。システムが基本的に化学反応のネットワークで作られているとはいえ、生命システムもある種の情報処理機構を内在した計算システムです。一体生命システムと工学システムは何が違うのでしょうか?
我々の挑戦
生命システムの設計原理を実験と理論を組み合わせ解明する
生命システムの素子の振る舞いが確率的であることは、50年近く前に理論的には予測されていたことではあります。しかし実際に実験的に検証できるようになってきたのは、2000年を過ぎてからのことです。21世紀に入り、バイオイメージング技術が新たに発展したことにより、細胞・細胞内現象の「確率性」という定量的な振る舞いを捉えることが可能になってきたのです。そして、このような生命システムの設計原理を捉えるには理論的な理解が重要であり、また明らかになった原理を生命システム以外に応用するためには、その本質を数学的に純化することが不可欠です。 我々は、実験生物学者と協力をしつつ実際の生命現象からその生命システムの設計原理を学ぶと同時に、それを的確に表現・解析する数学的な枠組みを構築することを目指しています。
設計原理を数理として表現し応用する
また最終的には数学的に表現された原理を人工システムの設計に応用し、信頼性の低い素子から安定なシステムを作り出す新たな方法論を模索しています。
具体的なテーマについていは以下のリンク先を参照してください。
- 定量データから紐解く生命システムの確率性と安定性の共存(【1】定量生物学)
- 確率的な素子から安定で柔軟なシステムを作る数理的ロジック(【2】確率生体システム論)
- 確率的な素子から安定なシステムを構築する設計論(【3】確率システム設計論)