これまでの研究

分子・細胞生物学における理論構築(2000~2005年)

 2000年から20005年にかけては、分子生物学における数理理論構築の研究を行ってきました(原著論文【1,2, 5】,解説論文 【1,2】)。現象の本質の抽出とその理解を可能とする数理的な基礎作りが、当時盛んに開発されていたシミュレータの担う記述的な役割を補完しうること、そしてこの2つの融合が実験との親和性の高い理論につながりうることを考え、基礎理論構築の研究を中心に行いました。特に、遺伝子発現に伴う時間遅れ・細胞分裂などの、多くの細胞内動的現象に普遍的にみられる特性が現象理解に不可欠であることを重視し、それらを積極的に取り込んだ理論の構築を行いました。これらの特性は数理的取り扱いの困難から従来の理論研究では積極的には扱われていなかったため、我々の研究は国内外の研究に先行してその重要性を明らかにした理論研究となっています。さらに原著論文【4】ではこの理論を人工遺伝子ネットワークの設計に応用し、必要な機能を表現する最小の数理モデルから出発して、その特性を保持したまま要素を追加することによって実験的に現実的な人工遺伝子ネットワークを設計する手法を提案しました。人工遺伝子ネットワークの設計手法を提案する研究は原著論文【4】以後も国内外では少なく、先駆的な研究となっています。また当時からすでに、振動を示すネットワークの実装を目的とした実験・理論融合型共同研究を行っていましたが、遠距離間での共同研究体制構築の困難から当時は研究成果実現には至りませんでした。

2003年からはさらに、1細胞測定技術の進歩によって明らかになった細胞のゆらぎを解析する一般理論構築を行いました。書籍【1】では原著論文【3,4,6】で得られた予備的知見を発展させてネットワークの構成要素のゆらぎがどのように決定しているかを詳細に調べることができる手法を新しく構築し、様々な細胞内反応においてそのゆらぎ制御機構を統一的に明らかにしました。またこの理論を応用してゆらぎの原因を抽出可能な実験デザインの提案も行い、さらにゆらぎが反応カスケードの情報処理能を高めることも示しています(原著論文【8】)。これらの結果は特に解説論文【6】にまとめられています。

実験・理論融合型研究の実現(2005~2007年)

 2005年までの理論研究を通して、国内においては実験系と理論系との連携が十分に行われていないことが融合研究実現への最大の問題点であることが浮き彫りになってきました。また、共同研究の失敗などの経験から、真の融合型研究実現のためには、まず実験研究者との距離を0にして研究をすることが不可欠であるとがわかってきました。そこで、自らの構築した理論的結果や様々な理論的知見を実験と有機的に結びつけた融合型研究実現を課題とし、2005年より実験系研究室である神戸理研システムバイオロジー研究室に所属を移して、細胞現象のダイナミクスを1細胞レベルで実験的・理論的に明らかにする研究に着手しました(図1)。

特に
実験と理論の融合には実験と理論を仲介する定量データが不可欠であるにもかかわらず、定量データ取得に必要な要素技術(測定系最適化、画像解析、定量データ解析技術など)が欠けている
ことに注目し、まずその技術を原著論文【7】などにおいて1細胞測定系とその解析手法を開発しました。そして実験研究者との密な共同研究体勢のもと、これらの技術とこれまでの理論的な成果を融合させた結果、

  1. 概日リズム細胞集団の示すSingularity現象の背後に、1細胞レベルでの振動の脱同調のメカニズムが存在すること(原著論文【9】)
  2. ゆらぎを内在する細胞内スイッチの集団的特性と1細胞での特性が必ずしも一致せず(生物的エルゴード性の破れ)、1細胞と集団との振る舞いまったく異なりうること(原著論文【10】)
  3. 負のフィードバックループがロバストに細胞内ゆらぎを抑制しうること(原著論文【11】)
などを実証することに成功しました。②、③はこれまでに構築したゆらぎの一般理論の実験検証であり、①の現象の解明には、細胞内振動の理論と細胞内ゆらぎの理論を融合させた知見が大きな貢献をしています。特にSingularity現象の動作原理解明では、A.T.Winfreeによって1970年に現象が発見されてから40年近く解明されていなかった問題を解決することに成功しています。これらの結果は、フィードバック、スイッチ、振動子という細胞ダイナミクスの基本要素の特性を、1細胞レベルで実験と理論を融合して検証したものとして位置づけられるでしょう。

さらに、実験・理論融合研究の重要性を一般に認知することは、今後の生命科学の発展にも重要であるとの考えから、積極的に多方面にて発表(招待公演・講師【1~20】)および教育活動を行ってきています(招待公演・講師【9, 10, 12, 14, 18】)。

研究関連図

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